仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
寝室から物音が聞こえた気がした。
美琴は少しだけ躊躇ってから寝室の扉をノックした。

こういう時、本当の夫婦なら迷いなく扉を開けて夫の様子を見るのだろう。
けれど、美琴は一希に関しては何をするにも一瞬立ち止まってしまう。

拒否され続けたせいで、一希に関わるのが怖くなっていた。
それでも好きな気持ちはあるから、これ以上距離を広げない為近づいて行っては傷付けられる。

ノックの返事は無かったと思う。
けれど静かに扉を開いた。

一希は目を覚ましていた。
先ほどまでより顔色は良くなっている。それでも、体はまだ辛いようで、立ち歩く事は出来ないようだった。

「あの、大丈夫? 何か飲み物を持って来ようか?」

放っておけと言われるのを覚悟しながら声をかけると、珍しく違った返事が返って来た。

「俺のスマホを探してくれないか?」

「え?……ああ、ビジネスバッグと一緒に置いてあったけど」

「リビングか……誰かから着信はあったか?」

一瞬どきりとしてから、平静を装って答える。

「着信音は鳴っていたけど、確認してないわ。見たらいけないかと思って……」

つい嘘を言ってしまい罪悪感が募る。 でも、観原千夜子の名前を口にしたく無かったのだ。

「持って来てくれ」

「……少し待ってて」

一希は千夜子からの着信を待っているのだろうか。

(こんなに体調が良くないのに、彼女が気になるの?)

連絡を取って欲しく無かった。
しかしそんな事を言えるはずもなく、リビングに行きスマホを手に取る。

着信音を元に戻してから一希の下に戻り、手渡した。

一希は僅かに表情を緩ませたように見えた。
千夜子と話せると喜んでいるのだろうか。

「電話する。向こうへ行ってくれ」

「……はい」

一希のテリトリーから追い出されたことに傷付き、美琴は深いため息を吐いた。
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