仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
夕方になると一希が部屋から出て来たが、美琴の存在を無視するように、目を合わせようとしなかった。

彼の体中から拒絶の意思が滲み出ているように思えて、美琴から話しかける勇気は持てなかった。

それでも夕食として、温かなポトフと生姜おにぎりを用意した。

それらは食べられることはなく、翌朝一希は美琴を無視して家を出て行った。



話しが有ったのに、取りつく島もない態度に、悲しくなる。

どうすれば、彼の気持ちを和らげられるのだろう。

一番は美琴が居なくなることだろうが、それは実現不可能だ。

沈んだ気持ちでスマホを手に取り、メッセージアプリを起動する。

読まれるかは分からないが、短い文章を作り送信した。


『急用が出来たので出掛けます。帰りは十八時過ぎの予定ですが、食事の準備はします』


昨日の件を謝ろうかとも迷ったが、結局それについては書かなかった。

謝るのは何か違うと思ったからだ。
一希と仲良くしたいけれど、千夜子のことはどうしても容認できない。

(愛人なんて……私は平気でいられない)

せめて家には来ないで欲しい。その気持ちはどうしても譲れないから。
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