残念な王子とお節介な姫
20時半

俺は、送別会会場の居酒屋に入った。

宴もたけなわな感じで、賑やかな空気が流れていた。

俺は、「お疲れ様」と言って輪の中に入ると、結に歩み寄って行った。



「結、お疲れ様。」

そう言って、俺は、結にリングケースの蓋を開けた状態で、指輪を差し出した。

「結、俺と結婚してください。」

指輪を見た結の目から、涙が溢れた。

泣きながら、
「はい。」
と受け取る結。

だけど…
俺は、やっぱり感じる違和感は拭えなくて。

これが嬉し泣きならいいのに。

なんで、違う事に気付いてしまうんだろう。

結の些細な表情も読み取れるほど、ずっと傍にいたのに。

今も、こんなに傍にいるのに。

なんで遠く感じるんだろう。



「ひゅー!!
やるぅ〜!!」

「おめでとう!!」

俺たちの思いをよそに口々に冷やかしとお祝いの言葉が飛ぶ。


俺は、感情を殺して、
「ありがとう!」
と微笑んで、手を挙げる。

そして、結の左手をとって、薬指にリングをはめた。


外堀を埋めるために。

結を手に入れるために。

結…
戻って来い。

3ヶ月前の俺たちに戻ろう?
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