愛のない部屋

大袈裟にため息をつく。
朝から運気が逃げそう…。


「ねぇ峰岸。私はアンタとマリコさんのこと気にしてないの。だから余計なこと考えないで」


「強がり?」


「事実を言ったまでよ。アンタは必ず私の隣りに戻ってくる……そう信じて良いんでしょう?」



一瞬、驚いた顔になったがすぐに微笑んだ峰岸は後ろから私のお腹に手を回す。

セクハラで訴えるべきか悩んでいると、耳に吐息が触れた。


「おまえを離さないんじゃない。俺が離れられないんだ」


「……離れて」



近すぎる距離に、声が上ずる。



「嫌な女に会いに行く前に、充電させてよ」



背後から私に体重をかけてくる男の腕を力を加えて引き剥がす。


「何度も言わせないで、離れなさい」


「ケチ」


拗ねたように言う大きな男を無視し、歯磨きを続ける。


「行ってきます」


鏡越しに"いってらっしゃい"、そっけなく言えば、



「こっち、向けって」



無理矢理、身体を回転させられた。



ああ、朝から面倒くさい。

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