愛のない部屋
峰岸と向き合うかたちになり、仕方なく口にする。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「うん。いってきます」
満足したのか、流れるような動作で峰岸は洗面所を出て行った。
同じ職場であるにも関わらず、峰岸は1時間ほど早く出社する。
大量のメールのチェックをするためらしい。
仕事熱心なところは尊敬できる。
「やばっ、ギリギリセーフ!」
そう始業チャイムが鳴り終わると同時に、オフィスに滑り込んでくる篠崎にも見習って欲しいものだ。
「おはよーさん」
「篠崎さん、おはようございます」
女性社員の熱い視線を受けながら私のデスクを通り過ぎた、
――と思ったのに、
足を止めた。
「沙奈ちゃん」
「はい?」
振り返ると、冷たい笑みを浮かべた上司が無言で私を見つめた。
理由も分からず、寒気がした。
「いや、なんでもないや〜腹減った」
すぐにまたいつもの緊張感のない笑みをヘラヘラ浮かべる、切り替えの早さ。
困った上司だ。