愛のない部屋
何度か携帯が震動し、峰岸からの着信があったが無視をした。
今夜の謝罪なら、いらない。
きちんと約束をしたわけではないし、彼女を優先することは当然の行為。むしろ彼女がいる身で誕生日に他の女と過ごすなんて、どうかしてる。
これ以上、マリコさんを裏切って欲しくない。
不倫までして手に入れたかった女性と、ただの同居人との優先順位だって、峰岸の中ではもう決まっているはずだから。
敗者は彼の元から離れよう。
また携帯が震度した。
今度は篠崎からでタクシーの中ではあったが、電話に出る。
「はい」
「おまえ、何処にいる?」
荒々しい篠崎の声に、なにか失敗でもしたのかと焦る。
彼は滅多に声を荒げない。
「ミスがありましたか?」
「仕事じゃなくて、峰岸だよ」
「……峰岸がなにか?」
電話越しに篠崎の溜め息が聞こえた。
「伝言、ちゃんと伝えたよな?」
「ええ」
「なのにアイツは俺が伝えなかったと勘違いして、電話で文句を言ってきやがったぞ」
ホント、不愉快。そう付け足された言葉に申し訳なく思う。