愛のない部屋
一緒にエレベーターを待っている。
なんだか落ち着かない。
峰岸の車から降りた所を誰かに見られていないかだとか。変な噂をたてられないかだとか、世間体ばかり気にしている自分に呆れつつも、峰岸を見る。
「朝から難しい顔してるな」
「幸せすぎて、なんだか余計なことまで気にしているみたい」
峰岸は私の頭を、ポンポンと数回叩いた。
「あんま考えるなよ。俺は浮気もしないし、おまえを泣かせるようなことは絶対にやらない」
「うん、分かってるよ」
幸せを掴んでも、心配性は治らないらしい。
「あ、峰岸さぁん。おはようございまーす」
エレベーターのドアが開いた同時に、朝からハイテンションの彼女がやってきた。
名前は……
――――忘れた。
「おはよう」
平然として峰岸はそれに答え、エレベーターに乗り込む。
「峰岸さん、今夜一緒に……」
「ごめん。予定があるんだ」
彼女に最後まで言わせず、きっぱりと峰岸は答えた。
あ、名前思い出した。
七瀬さんだ……。