愛のない部屋

「……帰る。そっちが悪いんだから、殴ったことは謝らねぇぞ」



返事を待たずに篠崎はさっさと歩き出した。


「輝、一杯付き合ってよ」



マリコさんは私と峰岸に軽く頭を下げると、篠崎の後ろ姿に声を掛ける。



「もう2人の邪魔はしないから――結婚式には呼んでね」



私に向けられた彼女の笑顔はとても魅力的なもので。

同性なのにときめいてしまった。

私のライバルは手強いはずだ。


こんなに綺麗で、強くて。
優しくて。



私は完璧、彼女のことを誤解していた。

ライバルだからといって嫌いになる必要も憎む必要もなかったのに。



醜い感情は、マリコさんを映す自分自身の瞳というフィルターを、気付かないうちに汚してしまっていたようだ。

情けない。



「マリコさん、ありがとうございました」


「こちらこそ」



私と峰岸は手を繋ぎながら、2人の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。



決着のついた夜、綺麗な月が私たちを照らす。



「帰ろうか」



そっと微笑んだ峰岸は今までで1番優しい顔をしていた。


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