愛のない部屋




「名前、呼んで?」



耳元で囁かれ、胸がキュンってなる。
待て待て、なにこの乙女な反応…。



「……無理」



そんなガラにもないことできないと首を横に振れば、



「つまんない」



ふて腐れたように、峰岸は身体ごと壁の方を向いた。



「……」



目の前の大きな背中に、そっと触れる。





「けい、ご」



高鳴る鼓動を抑えて、心を込めて愛しい名前を呼んだ。


それでも峰岸からの反応はなくて。



聞こえてないのかと、再度チャレンジ。




「慶吾、愛してる」




言い終わると同時に、はにかんだ峰岸の顔が迫ってきて、


またキスの嵐に溺れた。



キス、キス、キス。



淫らな音が暗い部屋に響く。




ひんやりとした手が数時間前の感覚を呼び起こすように服の中に侵入し、敏感なラインをなぞる。




「明日、会社休め」



そう命令すると、峰岸は小さく笑った。



「もう我慢なんて、しないから」



……今日はもう寝れないな、


でも這いつくばってでも、会社にいってやる。




そう心の中で反論して、私は峰岸に再び身体を委ねた。









もう此処は、

この家は、



愛のない部屋なんかじゃない。




温かくて優しくて、

居心地の良い場所。





愛の溢れた部屋へと変わり、



私たちは此処から



新しい一歩を踏み出すんだ。



愛しい人と、一緒に。








―――愛のない部屋(完)





2018.12.05





拙い文章でお目汚しかと思いますが、最後までお付き合い頂けた方がいらっしゃいましたら、飛び上がって喜びます。本当に本当に有難うございました。

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