愛のない部屋
篠崎は大きく伸びをする。
「まぁ樫井だろうが傾国の美女だろうが、アイツは相手にしないさ」
仕事ができるがそれを鼻にかけていなくて。
そのくせ容姿も良くて。
ライバルとしては強敵すぎる。
「おい、沙奈ちゃん聞いてる?」
「あ、すみません」
デスクの上に長い足を投げ出した篠崎は私を指差した。
「眉間にシワ、できてる」
「……」
すぐに顔に出てしまうこの単純な性格をホントに直したい。
「樫井のペースにのせられるな。アイツが好きなのは、今のおまえなんだから」
「……はい」
「今夜も樫井に張り合おうとするな。おまえらしい仕事をしろ」
「えっ……」
今夜?それって……
「樫井と俺と峰岸で、毎週残業して会議の資料作りやその他諸々なことやってるんだ。部署の垣根を越えた方が、良いアイディアも生まれやすいし視野が広くなるからな」
樫井さんと定期的に残業をしていたとは初耳だ…。仕事だと分かっているけれど、嫌な気持ちになる。
峰岸は毎週、樫井さんと会議室で――
「沙奈!」
ひとり物思いに更けそうになる私を呼び戻した篠崎の声が響く。
珍しく呼び捨てで、怒鳴られた。