愛のない部屋

運ばれてきた珈琲を口にした私たちは、しばらく無言だった。


沈黙を破ったのは、私だ。



「ずっと引きずっていました。あんな辛い別れを経験するくらいなら、もう恋はしない。そう誓った私を救ってくれたのは、彼なんです」


「……やっと病気を治して、がむしゃらに働いて。大学の教授としての地位に着いた俺を、沙奈は見捨てるの?」


「……」


「俺だって苦しかったよ」




私の初恋は、


お互いを大切に想うあまり導いた悲しい結末だったのだろう。



「もう終わりにしませんか?先生が苦しかったこと、どれだけ私を大事にしてくれていたのか……やっと分かりました。私は後悔を、懐かしさへと変えるために、先生に会いたかっただけです」



もう先生との未来は、ない。



「今の君に何を言っても、揺るがなそうだね。出直すよ」


「……もう会えません」


コートを羽織ながら先生は、小さく溜め息をついた。



「沙奈は変わったね。随分と、強くなった」


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