愛のない部屋
先生はテーブルにお札を置くと、止める暇もなく店から出て行ってしまった。
これで良かったのだろうか。
きっと先生を傷付けてしまった。
才能も魅力も、なにひとつ持っていない私を好きだと言ってくれた大切な人とサヨナラすることは寂しいけれど。
それ以上に、峰岸の手を離したくないと感じた。
喫茶店で会計を済ませ、私は携帯を取り出した。
今すぐに、峰岸の声が聞きたい……
本能のまま、電話を掛けた。
『はい』
何コールかすると、低い愛しい声が響いた。
「峰岸……私を、愛のない部屋でひとりきりにしないで――」
馬鹿なことを言っていると、峰岸は笑うだろうか。
彼の反応が怖い。
『俺も沙奈のいない部屋は冷たくて寂しいよ。早く、帰っておいで……俺は――』
最後まで峰岸の言葉を聞かず、私は泣き声を上げた。
周りの目なんて気にもせず涙を流し、携帯電話をぎゅっと握り締めた。