世界で一番似ている赤色
「綾ちゃん」
目を合わせられなかった。
今、絶対近くで見つめられてる。
今日メイク直ししてないし、鼻やおでこがテカってるかも。
「ど、どしたの?」
「キスしよ」
「えええええ? 待って! 心の準備が……」
慌てて彼から離れ、立ち上がった。
後ろの遊歩道では、練習帰りらしき野球少年軍団がぞろぞろ歩いている。
数人がわたしたちを見て、カップルだー、ラブラブだー、なんて噂をしている。
こ、こんな公衆の面前で、しかも健全な子どもたちが近くにいる中で、そんなことしちゃダメでしょゼッタイ!
「急に拒否っちゃってゴメン! えっと、そのここ人いっぱいいるし!」
慌ててフォローすると、川瀬くんは両手で自分の顔を隠した。
髪の隙間から見える耳は赤くなっている。
「俺こそごめん」
「…………」
「だけどさ、付き合って1ヶ月じゃん。俺、綾ちゃんのこと本気で好きだから」
景色から光が失われていく。
街灯がつき、一定の場所だけが照らされる。
「綾ちゃんに、もっと俺のこと好きになってほしいから」
顔を真っ赤にしながら、上目でわたしを見つめる川瀬くん。
「…………」
まだ本気で好きって思えなくて、ごめん。
他の人と手をつないだり、キスしたり、くっついたりすること。
わたしにはまだ想像ができないんだ。
わたしなりにきみを好きになれるまで、もうちょっと待って。
「わたし、彼氏できたの初めてで。いろいろ上手くやれなくて、川瀬くんのことたくさん困らせてるよね?」
「ちょ、謝るなよ。俺こそ綾ちゃんのペース乱さないよう頑張るからさ」
「……うん。ありがとう」
川瀬くんの優しさに甘えすぎていたらダメだ。
分かってはいるものの、いつまでたっても心の奥底に閉じ込めたはずの想いにとらわれたまま。
どうしたら優にぃを忘れられるのだろう。