桜恋色
「そろそろ……名字で呼ぶの卒業してあげなさいよ? アンタも一緒の名字になるわけなんだし」



振り返った瞳実に釘を刺された。



夜の街に消えていく二人を見送り、踵を返す。



名字かぁ……。



どうも癖になっていて、つい名字で呼んでしまう。



確かに、わたしも同じ名字になるわけだから……、



意識して直さないとな。




なんて、ぼんやり考えながら歩いていたわたしを、



「桜重さんっ」



迎えに来てくれた愛しの彼が呼んだ。




わたしはお酒と幸せで赤らんだ笑顔で走り寄り、



「ただいまっ。温和っ」




胸に飛び込んだ。



「急に何……」



名前で呼ばれて、照れくさそうにはにかむ顔は出会った頃と変わらない。



「だって、今日から同じ名字になるし?」



こう言ってわたしは左手の腕時計を見せた。



十二時きっかりを差す針と、薬指の指輪が月明かりにキラキラ光っている。



ギュッと繋いだ左手には、お揃いの指輪。



一年前の丁度この時に、約束通り大人になって会いに来てくれた椎名くん。




< 34 / 35 >

この作品をシェア

pagetop