朝マヅメの語らい
「おい坂巻」
 橋爪が二時間ぶりに声をかけると、坂巻がPCモニターの横から顔をのぞかせた。

「はい?」すっきりとした奥二重の目が見開かれる。

「腹へらねえか? 普通に」橋爪が愚痴まじりに尋ねると、

「そうですね。コンビニで何か買ってきましょうか?」坂巻は共感を示すように目を細め、それから席を立った。

「いや、飯食ってる時間があったら俺はもう帰りてえよ。つーか、もう上がるわ」わざとつっけんどんに言い放ってみる。

「そのほうがいいかもしれないですね。橋爪さん、明日の朝は会議がありますし。あとは僕がやっておくので、明日の朝確認してもらえれば」

 ところが坂巻はいやな顔を見せるどころか、ほっとしたように表情を和らげた。ひとりのほうが気楽だということだろうか。

橋爪はそんな風に考えながら、背もたれに深く寄りかかった。重い体に耐えかねたように、椅子が軋みを上げる。
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