朝マヅメの語らい
神長はローディング中といったようすで海面に視線を落とし、ただ頷いた。

特別な答えを求めているわけではなかった。それでも理解してくれるであろう相手に、率直な気持ちを口にすると、心は軽くなるらしい。

 手首の先に微かな重みを感じて、橋爪はリールを巻いた。慎重に餌木を引き上げてみると、アオリイカの代わりに海藻がびっしりと絡まっていた。神長にロッドを持たせておき、丁寧にそれを外していく。

 アオリイカは初夏にかけて、藻に卵を絡みつけるように産卵する。おそらく狙っているポイントに間違いはいないのだが、マヅメ時の一度目の引きがこれだと、今日の釣果が思いやられる。

 橋爪はもう一度ロッドを振った。遠い波間に鮮やかな餌木が音もなく吸い込まれていく。

「まあ俺も居場所がねえのよ。総務部ってのは、うちの会社じゃあ改革派の本拠地みたいな場所だからな。同じ考えの人間が集まって、ひとつの目標に向かおうとする力はそりゃすげえわ。圧倒的だ。

俺はずうずうしく居座ってやってはいるが、課長職にせよ、本当は坂巻に任せたいはずだ。そういう流れになってる」
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