レフティ

それが今。
いつものように地元の居酒屋に呼ばれて行ってみると、美沙はあのオラオラ系のタカヒコさんとも、関係を続けていると笑いながら話した。

「鎧塚さんは?」

「いや剣士くんともそりゃ会うよ。イケメンだし」

普段であれば、美沙のやることに文句を言ったりしない。
以前美沙も言ったように、彼氏がいるわけじゃないのだから、何をしてもいいと私も思っていたからだ。

ただ、鎧塚さんには本気なんだと思っていたから。
タカヒコさんに会うのは、少し違うんじゃないかと思ったのだ。

ただやっぱり、それを指摘はできなかった。
それが彼女の逆鱗に触れることは、明白だ。

私は話半分に、ビールジョッキを傾けてはポテトサラダをつまむという行為を、ひたすら繰り返していた。

そんな私を見てか、彼女は何度も何度も、「里香はいいなぁ」なんて言って。
しまいには、「落とし甲斐がある」だなんて下衆っぽい言い方をしたから、もう私も抑えきれなかった。

「ごめんごめん。なんかあの2人みたいな人からしたら、里香みたいなウブな感じの方が、気引けたのかなってちょっと思って」

「なんなのさっきから。喧嘩売ってんの?」

最近は立場が似ているということもあって、私と美沙は、ただの仲のいい親友のような関係になっていたが、そもそもは違う。
親友であることに変わりはないが、昔は絶えず喧嘩をしていた。
高校時代は、美沙の男癖の悪さについ言い過ぎてしまって、丸1年口をきかなかったことだってある。

気心知れた間柄だからこそ、私たちはいつだって、つい言わなくていいことまで口走ってしまうのだ。

「喧嘩売ってんのはそっちでしょ。言いたいことあるなら言いなよ」

眼光鋭く、私を睨みつける美沙。
私もそれに負けじと、彼女の目を睨んだ。

「…鎧塚さんのこと。好きなんじゃなかったの?」

「好きだけど。でもしょうがないじゃん。これ以上どうにもならないんだもん」

このとき、ひと息ついたらよかったんだ。
そしたらこんな無神経なこと、絶対に言わなかった。

「どうにかするのは自分じゃないの?美沙は他の男に逃げてるだけじゃん。そんなで何か変わると思ってるの?」

ブチっと、彼女の中で何かが切れる音が聞こえた気がした。

「自分がうまくいったからって、一緒にしないでよ!てかそれだってさ、遊ばれてるだけなんじゃないの!?」

ゴン、とビールジョッキを机に強く叩きつけた鈍い音とともに、私の中の何かも、プチンと切れた。

「それはそっちでしょ!誰にでもすぐ許しちゃうから、こういうことになってるんだよ。いい加減気づきなよ!」

美沙の目からは、涙がこぼれ落ちた。
泣きたいのはこっちの方だ。

やっと恋がうまくいったのに、どうして今度は友達とうまくいかなくなってしまうんだろう。
両方うまくやれるほど、私は器用じゃないということだろうか。

「帰る」

私は机に5000円札を置いて、居酒屋を飛び出した。

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