レフティ

「桃は大丈夫だよ。普通流されちゃうじゃん、こういうときって。昔っから、本当に大事なことはちゃんとわかってるって知ってるから。自信もちな」

「…やめてよ。急に年上感ださないで」

言われた言葉があまりに恥ずかしくて、つい強がってしまったけれど。
峰岸くんの言葉は、喉の奥をきゅっと締め付けた。

本当に大事なことなんて、ちっともわかっていないよ。
峰岸くんの買い被りだよ。
私はいつだって、不正解ばかりで。

そういえば、昔からミスの多い私をさりげなくフォローしてくれていたのは、峰岸くんだったな。

「まぁそれか、よっぽど俺に魅力がないのかな」

きっと、これもわざとだったと思う。
わざと、私が笑えるように彼は振る舞ってくれた。

「…それもあるかもね」

おいー、なんて顔をくしゃくしゃにして笑ってくれた峰岸くん。
つられて、私にも笑顔が戻っていた。

例えば峰岸くんとか、もう随分と昔の記憶になってしまったミドリくんとか、そういう私の感情をうまくすくい上げてくれる人を好きになれていたら、どれだけよかっただろう。

勝手に人の心を読んで、それをあざ笑ったり手玉に取ったり、見て見ぬフリをされたり。
悠太はいつだってそうだ。
だからいつまで経っても、私は彼に下に見られている、と感じる。

さっきもそう。
仮にもまだ私は彼の彼女だというのに、弁解をすることも、追いかけてくることも、連絡すらない。
どう思っているかなんて、そんなことは絶対にわかっているはずなのに。

それとも私はやっぱり、“彼女”ではなかったのだろうか。
彼の大勢の女性の中の、少しだけ特別な1人ってところなのか?

付き合うことになったあの日からずっと、胸の奥で渦巻く疑惑。
彼がいまだ話してくれない何か。

思い返せば私は、彼のことを何も知らない。

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