レフティ
急に美沙から連絡がきたかと思えば、深夜1時。
今から迎えに行くだなんて、不思議なことを言った。
彼女も私と同じ、ペーパードライバーのはずだ。
ちょうど峰岸くんもシャワーから出てきて、私は友達が迎えにくるから先に帰る、と伝える。
「髪、ちゃんと乾かしてきな」
本当に、どこまでも親戚のおじさんみたい。
私は言われた通りにもう一度ドライヤーをあてて、念入りに髪を乾かした。
「じゃあ行くね」
「おう。1人で大丈夫?送ってこうか?」
「大丈夫だよ。いくつだと思ってるの」
またね、なんて言って私はホテルを後にした。
正直言って、助かった。
あのまま同じベッドで寝るなんて、それはそれで気まずいから。
ホテルからすぐの指定されたコンビニの前で、私は美沙を待つ。
時間の割に店内は賑わっていて、すっぴんで入るのはいささか憚られたからだ。
美沙に会ったら、まず何を話そう。
謝る…のもなんかなぁ。
かといってそのまま普通に話すのも、なんだか気持ち悪い。
そんなことを考えていると、駐車場に1台の黒のセダンが停まった。
この時間の黒のセダンは、どう考えても良くない人が乗っている気がして。
私はそれから少し距離を取った。
まるで気付いていません、というアピールのように、スマートフォンを手に取って、懸命にそれを眺める。
しかしその車から降りてきた人物の声は、私の知っているあの低い声。
「里香」
「は…?」
あからさまな動揺を象徴するように、手に持ったスマートフォンがアスファルトの地面に向かって滑り落ちた。
なんでここに彼が?
美沙は?
え、グル?
頭がおいつかない状況の中でも、やはり私は意外と可愛くて。
すっぴんで来てしまったことを、ひたすら後悔していた。
まったく、事態はそれどころじゃないというのに。