レフティ
あの日ミドリくんは、もう絶対にしないから、いつものように一緒に眠りたい、と言った。
それに応えるのが正しかったのかはわからない。
ただ最後のミドリくんの温もりは、とってもあたたかくて、それがかえって私の胸を深く深くえぐり取っていった。
「やっぱねー。絶対そうだと思ってたもん」
つくねに卵の黄身をたっぷりつけながら、美沙が言う。
「だけどずっと何もなかったから…」
苦し紛れの私の言葉を、軽く笑い飛ばした美沙。
「男と女の友情なんて、この歳じゃありえないんだよ」
今の私では、それに返す言葉もなかった。
きっと美沙の言うそれが、男女の正解なのだろう。
「そういえば昨日着付け教室だったから、山辺先生にお礼言っといたよ」
「あぁ…私も明日だ…」
電車で先生に言われたことを思い出すと、いささか会うのが気まずくもあった。
「ん?嬉しくないの?」
不思議そうな美沙に、あの後電車で先生に会ってしまったことを話すと、彼女はお腹を抱えて笑った。
「ちょっと笑いすぎだから」
ビールジョッキを傾けたが、すでにそれはもう空であった。
「ねー、山辺先生こそ里香の“運命の相手”なんじゃないの?」
キラキラと目を輝かせる美沙。
― 他人事だからって。
「そんなわけないでしょ、私は絶対一途で誠実な人がいいの!」
ビールおかわり!とその勢いのまま店員さんに注文してしまい、はっと我に返った。
「まぁそれはわかるけど。私もタカヒコさん、ちょっと嫌になってきちゃった」
タカヒコさんというのは、あの美沙が恋してしまったという“オラオラ系”な男性のことだ。
あの日美沙はタカヒコさんと再合流して、そのままホテルに直行。
付き合うだなんだという話は一切なく、ただ呼ばれたら行くという関係になってしまったらしい。
「これってただのセフレじゃんね」
美沙も、事実はきちんと理解しているようだった。
それでもやめられない気持ちは、経験はなくたって私にもわかる。
「それにさ、キャバクラのキャッチなんだって仕事。年収も良くなさそうだし」
美沙の絶対的条件の1つに、年収700万以上という、私たちの年齢にしたらかなりシビアな条件がある。
それに加えてルックスもというから、まぁ彼女がこじらせているのは、たぶんそこなのだろう。
「はーほんっと。いい出会いってどこにあるのかなー」
私たちがそんな堂々巡りの話をしているうちに、夜は更けていった。