レフティ
「おー桃田さん!」
金曜日の着付け教室。
今日は受付に山辺先生が立っていた。
「あ、こんばんは…。よろしくお願いします」
不意を突かれた私は、ろくに先生と目も合わせずにそう言う。
「なーんか金曜のこの時間って人気ありそうなのにさ。またマンツーマンだよ~」
「はぁ。そうなんですか…」
今日の先生は紺色の着物に同じ色の羽織を合わせていて、まるで昭和の文豪のような出で立ちである。
「はい、じゃあこの前の復習からいきま~す」
和室に2人きり。
羽織を脱いで着物の帯を解くその姿は、きっと何回見たって私は直視できないだろう。
今度は、先生の説明とほぼ同じペースで、裾よけと肌襦袢を身に着けることができた。
1週間前に教わったことなのだから当然といえば当然だが、要領の悪い私にしては上出来である。
「うん、すごいすごい。綺麗に着れてますね~」
褒められて伸びるタイプの私は、先生のその言葉に笑みがこぼれていた。
「よかった」
そう漏らした言葉を、先生は聞き逃さない。
「えー可愛いね」
「…ちゃんとやってください」
軽々しい先生の口にぴしゃりと言ってやった私だったが、心中穏やかではなかった。
可愛いだなんて、どんな人に言われたって嬉しいものは嬉しいだろう。
それがこのイケメン先生となったら、それはもう。言うまでもない。
ケタケタと笑うその姿は、少しだけ先生の素が垣間見えたような気がした。