レフティ

「ねぇそういえば!この前着付け教室に体験行ってみたんだけどね、先生がほんっとイケメンだったの!」

小学生の頃からの親友・美沙(みさ)は、居酒屋の他の客を圧倒するほどの興奮ぶりでそう言った。

「え、なにそれ行きたい行きたい。紹介して!」

そしてそれに負けじと、私も興奮気味に返す。

私と美沙は独身フリーをこじらせて、毎週毎週なにかしらの出会いを求めに、“そういう場”へ繰り出していた。
先程まで食事をしていた出版社の男性も、先月の街コンで知り合った人だ。

「でもやっぱ遊んでそうな感じだったな〜。あの人に街コンで会ったとして、着付けの先生なんて言われても、絶っ対信じない」

彼女は頬杖ついた肘を、ぐぐっと左側に座る私の方へずらしながら笑った。

「和服男子って真面目そうなのにー…あ、すいません」

こちらに寄ってきた美沙に反応して、私まで無意識に身体が左側に寄っていたらしい。

「……着付けって、右利き左利き関係あんのかな?」

隣のお客さんにぶつかった左手を見て、思い出した。

昔、茶道部に体験入部しに行ったときのことを。

あのとき言われた、手に持つものすべてを右手で、という屈辱。

茶杓と茶筅まではなんとかできた。
ただ、お菓子を頂くお箸まで右手でと言われると、さすがに無理だ。

それで茶道部への入部を断念したことは、私の左利き人生の中でもかなり上位にランクインするほど、不愉快な出来事であった。


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