レフティ

そのあとビールジョッキを合わせた私たちは、先生主導のもと自己紹介をした。

「教室の生徒さんで、桃田さんと近藤さんね」

「桃田里香です」
「近藤美沙です」

「里香ちゃんと美沙ちゃんね~初めまして~」

気品漂う鎧塚さんの笑顔だったが、手元のおしぼりでアヒルを作って喜ぶ姿には親しみを感じられた。

「あれ、里香ちゃん左利きなんだ」

鎧塚さんもやっぱりそれを指摘するが、イケメンに言われると、またか、とはならないから不思議だ。

「桃田さんはね~典型的な左利きよ」

先生の言う“典型的な左利き”が何を指しているのかは明確にはわからない。
ただ、さっき私が逆ギレしたときにそれを言われたことを考えると、たぶんいい意味ではないだろう。

私が顔をしかめて、何かしらを言い返そうと思ったときだ。

「よく言うわ、お前も左利きじゃん」

― え?
鎧塚さんの言葉に耳を疑った。

「え、先生左利きなんですか?」

しかし目の前の先生は、右手で箸を持っている。

「俺は両利きなの~。なんでも両手でできるから」

そう言って左手に箸を持ち替え、サラダのクルトンを1つつまんだ。

「すごい…」

「それまさに天才ってやつですね」

美沙の言葉に先生は笑ったが、それが作り笑いであることは私にはわかった。
先生は本当に天才かもしれないが、基本的に、左利き=天才の理論を言われて喜ぶ左利きは数少ないだろう。


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