レフティ
「桃田さんは右手でなにもやらない?」
「うん、なにもできないです。茶道のとき―…」
高校時代の苦い経験の話をすると、先生も鎧塚さんも声をあげて笑った。
「いやそれはきついよな。俺左手でやれって言われたら無理よ!」
一生懸命に左手でサラダの葉っぱをつまもうとする鎧塚さん。
「スプーンとかフォークならまだいいけど、箸は無理だよね~」
美沙もまた鎧塚さんのように、左手に箸を持ち替えてチャレンジしていた。
「和の習い事ってさ、右手でやらなきゃいけないこと多いんだよね。ほら、習字とか困らなかった?」
「あ、めっちゃ困りました!字っていうか絵を描く感じでやってましたもん」
もぐもぐしながらもうんうんと頷く先生に、妙な親近感を覚えてしまう。
これもきっと左利きあるあるだ。
身近にいる左利きとは、とりあえず話題が尽きることはない。
「あれだよね、習字の時間、里香だけ机前に出させられてなかった?」
「そうそう!手ぶつかるからってね」
美沙もよく覚えている。小学生の頃の話だ。
「え?2人ってそんな付き合い長いの?」
「小学2年…だよね、たぶん。里香が転校してきてそれからずっと一緒だよね」
「うん。一番最初に話しかけてくれたのが美沙だったんですよ」
懐かしい。
右も左もわからない私に、休憩時間のたびに話しかけにきてくれた美沙。
彼女のおかげで、転校生だからといって困ったことは何一つなかったように思う。
「へ~だからか。なんか雰囲気似てるよね2人。近藤さんの方が覚えは早いけど」
最後のは、あきらかな嫌味だ。
「来週にはちゃんとできるようになりますから!」
虚勢をはった私を先生は軽く笑い飛ばしたが、その笑い方は完全なるプライベートに見えて、悔しいが特別感を感じずにはいられなかった。