レフティ
それからしばらくは、旅行の件について時間を使っていた。
美沙や鎧塚さんとメッセージをやり取りしながら、細かいことを決めていくうちに段々と実感が湧いて、胸が変な高鳴り方をしている。
「いやーなんかあっという間に決まったね」
山辺さんがぐーっと伸びをして反り返ると、つられて私も体を伸ばしていた。
「ほんと。晴れるといいですね」
「ねっ」
反り返った体をバネのように定位置に戻すと、その勢いのまま、彼は私の顔を上目遣いに覗き込んだ。
本当、見ていて飽きない。
美人と一緒で、イケメンも3日で飽きるものと思っていたが、それは違うらしい。
むしろどんどん好きになっていく。怖いくらいに。
山辺さんに付き合って、苦手な日本酒を飲んでいるせいだろうか。
彼が好きになってくれたらいいのに、なんて欲が湧いてくるのは。
「旅行の週は合コン行けなくて残念だね?」
本当はもう私の気持ちに気付いていて、わざと言っているのかと思えるほど、彼は人の心を弄ぶ。
「それはそっちもですよね〜」
そして弄ばれてしまえばいいのに、どこまでも可愛げのない私。
可愛くない奴、なんて言われながら小突かれた頭にはハートが舞い散って、冷静を保つのに必死だ。
お猪口を傾けて誤魔化そうとするも、それは気づけばもう空だし。
「電車で会ったのは、一番彼氏に近い人?」
何がそう勘違いさせたのか、彼はミドリくんのことをそう見ていたらしい。
「…ううん、友達だったはずなんですけど…だめになっちゃって」
「あぁ、そーゆうこと。あっちが桃田さん好きになっちゃった系だ?」
恋バナになると、山辺さんは妙に生き生きした。
すでにテーブルには空の徳利がずらっと並んでいるのに、カウンター越しにまた冷酒を頼んだのが、その証拠だ。
「まぁそんなとこです。先生こそ、どうなんですか?がっつり女性の肩抱いてましたよね」
嫉妬を隠して、私は得意の作り笑顔で尋ねた。
わざわざ聞くこともないとわかっていながら、怖いもの見たさ、とでも言うのだろうか。
「俺はいつも1回だけだよ〜1回したら満足しちゃうから」
ー 思った以上のクズだ。
私って、つくづく男を見る目がないらしい。