麻布十番の妖遊戯
 瑞香のときにも空から降ってきた黒いものは、今、登の頭上に降り立った死神と同じだ。

 それは姿形はなく、柔らかい布のように風に揺れている。
 しかし、司も登もそれを見て悲鳴をあげ、口からは泡、穴という穴から血を吐き、息をする度に内臓が口から出たり入ったりするのを己の目で見ると、発狂した。

 這いつくばる指先からは指の骨が指先の皮を破いてずるりと出てきて、その手はくしゃりと音を立てて動きを止めた。肘が地につく。
 その勢いにおされて指先の皮をぶちぬいて腕の骨が飛び出した。顎が地につく。

 土がもぞりと動いた。何かが弾けるような軽い音を立てて土の中から白くて細いものが波を打ちながら立ち上る。
 迷わず鼻の穴から体内へ入り込む。そして内臓に食らいつき、外へ引き出してくる。
 登は悲鳴をあげ胃の中の内容物と内臓を辺りに吐き散らかす。

 いつのまにか目の前には自分がかつて手にかけた小動物らが自分のことを取り囲んでいて、今吐き出した内容物を噛みちぎって食らいついていた。

 罵声をあげても止まらない。その中にはもちろん猫夜と犬飼の姿もある。この二匹が先頭だって食らいついていた。

 死神はこの動物らが登を殺すのを待ち、完全に生き絶えると動物らを離した。死神が横に長く伸びた。小動物の姿が薄くなっていく。
 猫夜と犬飼を残し、ほかの動物が全て消えると死神は血まみれの体の上に被さると登を自分のうちに飲み込んだ。

 死神が登の体から離れると登はむくりと起き上がる。
 自分がどこにいるかわかっていないようだ。

 目の前にいる猫夜と犬飼をその目の中に捉えると、肩をお大きく跳ね、尻を擦りながら後ずさる。その目には恐怖が映っている。

 独り言を言い続け後退り続けるとふと氷のような冷たさが手に伝わる。
 振り返ればそこにはまっ黒い闇が大きく口を開けて自分を飲み込もうとしていた。その中から聞き覚えのある動物の最期の声が聞こえてきた。

 自分が手にかけたものが待ち構えている声だと理解するとさきほどの記憶が蘇った。
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