麻布十番の妖遊戯
「俺は死んだんじゃねえのか。今殺されたじゃねえか。痛い。辛い。あんな痛い思いはもう嫌だ。あんな恐怖はもう嫌だ。なあ、猫夜、犬飼、助けてくれ。俺を助けてくれよ」

 この後に及んでもまだ助けろという登に猫夜は、

「お前はこれから闇の中で、お前が今までに殺した動物たちにまた殺される。そこには我らも含まれている。お前は未来永劫殺され続けて苦しむんだよ」

「これ猫夜、それは俺の台詞じゃねえか」

 太郎が自分の台詞を取られたとばかりに軽く猫夜の頭をはたく。

「なんなんだよお前らは」

 登は何が何だかわからないまま、自分の後ろにぽっかり空いている穴から逃れようと今度は猫夜の方に這いつくばろうとしたところで、死神に捕まった。ひぃという悲鳴をあげる前に、登の体は凍り始めた。首から上だけは凍らず頭も正常に動いている。恐怖を感じるということだ。

 闇の内から真っ赤な目をした犬が一匹ゆっくりとぬめりと現れ、真っ赤な口を大きく開き、登の腕をやんわりと噛む。そのまま弄ぶようにゆっくりと、恐怖を煽るように闇の内に引きずり込む。

 登は泣き叫んでこの世に留まろうとするが体はすでに凍っていて動かない。気持ちだけがこの世に留まり、体は無情にも闇の中に飲み込まれていく。

 嬉しそうに鳴き叫ぶ動物の声が闇から漏れる。すっぽりと登の体が闇に飲まれると闇は登の悲鳴を結び取るように萎んでいった。
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