麻布十番の妖遊戯
 猫夜は自分のノートを取られると思い、伸びた昭子の手に無意識にパンチを入れたが昭子が華麗に避ける。ノートを引く。爪が刺さったまま引きずられ、犬飼が「ああ」と心配する声を漏らす。

 昭子の手を止めようと猫夜が反対の手で昭子の手をパンチするもするりとかわされノートに爪が入る。
 昭子がノートを引くと食い込んだ爪も一緒に引かれ、新たに爪痕が入る。
 数回そんなことを繰り返し、

「もうやめてくださいよ、ノートが破れちゃいますよ」
 
 犬飼が泣きそうな声を出す。
 昭子がぱっと手を離す。
 犬飼が素早くノートを自分の元に滑らせる。猫夜が咄嗟に犬飼の手元を見る。

「ほら、こんなに傷だらけになっちゃってる」

 犬飼が昭子に抗議の目を向ける。

「悪かったわね。でもわざとじゃないんだから許してちょうだいね」

 と昭子が胸の前で手をきれいにちょこんと合わせた。
< 128 / 190 >

この作品をシェア

pagetop