失翼の天使―wing lost the angel―
「飲む?」



「……はい……」



星を見上げて数秒。

視界には紙カップの底。

体勢を直せば、改めて差し出されたちょっとお高めな挽き立てコーヒー。



「あ、ミルクとか忘れた……」



「ふふっ。入れないので、大丈夫です」



格好付けてる人。

や、格好いいんだけど、白衣のポケットに手を突っ込んだり、引っ張って覗いたりしながら砂糖やミルクを探す鷺沼先生に、気が抜けて笑ってしまった。



「このコーヒーの自販機は、ボタンでブラックやミルク入りと選ぶんですよ?」



「癖でボタンとか見ないから申し訳ない。でも、笑顔が見れて得したかも」



隣に座った鷺沼先生は、カップを外してコーヒーに口付けた。

私はカップの飲み口を開け、「何の得もありませんよ」と答えて、1口飲む。



「……院長から聞いてますよね?私の事」



「あぁ。優秀で美人な子って」



「はい?」



「大池が俺に引っ付いてるけど、幼馴染みってだけで何でもない。親父はきっと、将来の伴侶として、履歴書を押し付けて来たよ」



「……見掛けだけ……;;」



「うん。親父は過去なんて気にしない」



「…………。聞いてるんじゃないですか!」



「うん」



…親子で何なの;;
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