お見合い相手はエリート同期
20.蘇るのは

 何もかもを忘れようと仕事へ集中しているのに、それを許してくれない人が現れた。

 素知らぬ顔で私の席へとやってきて、わざとペンを落とす。

「失礼。拾ってもらえないかな?」

 声をかけられても極力顔を見ないようにして足元へ転がったペンを拾う為に体を屈めた。

 デスクの下へ転がったペン。
 そのペンを拾おうと伸ばした腕へ澤口も同様に腕を伸ばした。

 デスクの死角の誰にも見えない場所。
 例え見られたとしても腕を軽く指でなぞられただけ。

 けれど私にはそれだけで昨日の全てが蘇って顔が熱くなる。

「高橋さん顔色が悪いですよ?」

 澤口はわざとらしく『高橋さん』とまで呼んで、そんなことを口にする。
 澤口の声につられるように周りの人も心配そうに私の顔を見て声を掛けた。

「本当。顔が赤いわ。
 医務室へ行った方がいいんじゃない?」

「職場へ戻るついでですし、俺が連れて行きますよ。」

 具合なんて悪くない。
 けれど何も言えずに澤口の後について歩いた。
 拒否したところでもっとひどい強硬手段に澤口なら出兼ねない。

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