お見合い相手はエリート同期

 店を出ると気を利かせているのか、知世は小倉くんと先へ歩いて行ってしまう。

 澤口は澤口で気にしていないのか、のんびりと歩を進める。
 仕方なく、私は澤口と並んで歩いた。

「恭一って呼ばないの?」

「………ッ。まだ言うの?」

「結婚したらお前も澤口だけど?
 それとも俺が婿養子なら高橋だし。」

「婿って……。」

 驚いて見上げると真っ直ぐに私を見つめる瞳と目が合った。

「何?」

「ううん。なんでもない。」

 真剣に夢物語ではなく、結婚を考えてくれているのかな。

 婿養子だなんて……。
 澤口がそういうこと気にしないタイプというのが意外だ。

 名字を変えることを必要以上に嫌がる男性の方が多いって聞くのに。

「もし結婚して、澤口になっても、澤口のことは澤口って呼ぶの。」

「へぇ。俺ん家に挨拶に来ても?
 家族全員、澤口だけど?」

 意地悪く言われてグッと言葉に詰まる。

「ま、それはそれで面白いけどな。」

 軽い笑いを吐く澤口が憎らしい。

「………恭一?」

「ん?」

 すごく優しい「ん?」がなんだか居た堪れない。
 消えそうな、ものすごく小さな声で言ったのに。

「ほら。もう一回、言ってみな。
 俺は誰?」

「………恭一。」

「フッ。よく出来ました。」

 頭を撫でてくる澤口の手を振り払う。

「子ども扱いしないで。
 澤口なんて大嫌い!」

 イーッと威嚇してから私は知世達の方へ駆け出した。

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