パクチーの王様
「未だに信じられないんだ。
 俺の料理に代金がついて、客がそれを払って食べてくれるとか」

「料理に関しては謙虚ですね」
と言うと、一言多いな……という顔をしたあとで、

「でも、本当に。
 なんていうか、こう、新鮮な感動なんだ」
と目を閉じ、逸人は言った。

 ……可愛いな。

 そんな逸人を見て、思わず、そう思ってしまう。

 いや、逸人さんに可愛いとか恐れ多いんだが。

 逸人は自分より二つも下のはずなのだが、子どもの頃から、彼を尊敬に価する人間だと思っていたせいか、どうしても、二、三歩下がって、ははーっ、とかやりたくなってしまう。

「どうした?」
と逸人がこちらを見た。

「いえ、逸人さんとこのような話をするのは初めてだと思いまして」
とグラスを手にしたまま言うと、

「そうだな。
 お前とは、じっくり話したことはなかったな。

 意外に、接点が多そうでなかったからな」
と逸人は言う。
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