パクチーの王様
っていうか、呑み残しを呑んでいただくなんて申し訳ないっ、と土下座せんばかりに緊張する。
およそ、夫婦で呑んでいる感じではないな、と自分でも思いながら。
逸人は芽以の残したカクテルを呑み干すと、
「なにか好きなものを頼め」
とお酒のメニューを渡してくれる。
「す、すみません」
と逸人による緊張で硬くなったまま、芽以は、それを受け取る。
「料理もなにか。
少し小腹が空いてるだろう」
軽いものしか頼んでいなかったのだが、逸人もお腹が空いているのか、もう少し頼もうと言ってきた。
「パクチーサラダがあるな……」
二人で目を合わせ、やめとこう、と合意する。
外でまでパクチーと遭遇したくなかったからだ。
頼んだあとも、メニューを手にしていた逸人は、夜景の見える席で少し微笑む。