パクチーの王様

 今でも好きだから、悲しいとかはない。

「ただ……

 こうして、圭太の話をしていると、次々思い出が押し寄せてくるだけです」

 だって、自分の青春時代はすべて圭太と共にあったから。

 そして、思い出のすべてに圭太が居るから。

 そう言うと、逸人が小さく囁くように言ってきた。

「そういうのを好きだったって言うんだろ?」
と。

 なにかが芽以の唇に触れてきた。

 ふわっと軽いそれは、逸人の唇のようだった。

 なにが起こったのかわからないまま身動きできないでいると、逸人はすぐに離れ、
「すまん。
 今日はずっと一緒に居ると言ったのに」
と言う。

 くしゃっと芽以の前髪を撫でてから、布団を持って部屋を出て行ってしまった。

 ぱたん、と扉が閉まる。
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