パクチーの王様

 私、動揺してますが、貴方、動揺しないですか?

 そう、ちょっと片言な怪しい日本語のイントネーションで訊きそうになる。

 逸人は、しばらく微動だにせず、黙っていたが、
「いや……それはいい」
と言ったあとで、突然、立ち上がり、

「彬光、食べるか」
と言って、IHの方へと向かった。

 はいっ、ありがとうございますっ、と言って、彬光は、仔犬のように逸人について行く。

 芽以は、そんな彼らの後ろ姿を見ながら、でも、なんだか考えちゃうなーと思っていた。

 いつまで、こんな状態なんだろうな、と。

 形ばかりの宙ぶらりんな夫婦だけど。

 逸人さんは、圭太と家のために、私と結婚したんだろうから。

 もしかして、あっちが落ち着いたら、私、ポイされちゃうんでしょうか? と思っていると、いきなり電話が鳴った。
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