パクチーの王様

 はいはい、と立ち上がり、芽以が電話を取ると、
『ちょっと、あんた、来ないでよっ』
という女の声がいきなりした。

 ん?
 間違い電話?

 いや、この声は何処かで聞いたぞ、と思っていると、
『今から、そっちに食事会の招待状が行くと思うけど。
 あんたは忙しいって断って』
と相手は言ってくる。

「……もしや、日向子さんですか?」

 まず、名乗れ、と思ったとき、誰かが裏口をノックした。

 はい、と逸人が出ようとしたが、
「あっ、わたくしが師匠っ」
と逸人の手を止めないよう、彬光が走っていく。

 いや、マスターじゃなかったのか……と思いながら見ていると、ドアが開き、
イケメン声の神田川が現れた。

「こんにちは。
 神田川です」

 うむ、よく響くいい声だ、と思っていると、彼は、
「あれっ? 君は誰?」
と人懐こい笑顔で、彬光に訊いていた。
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