パクチーの王様



 今、駆け上がったばかりだから、まだ起きているのは、逸人もわかっているだろう。

 芽以はドアの前で、フリーズしたまま思っていた。

 開けないでいると、無礼討ちにされるだろうか?

 神田川さんとかに、と。

「芽以」

 呼びかけてくる逸人の声が殺気を孕《はら》んできた気がして、

 おっ、怒っているのですか……?
と怯えたそのとき、ぼそりと逸人が言うのが聞こえてきた。

「蝶番《ちょうつがい》を外すか……」

 ひっ、と芽以は息を呑む。

 この部屋のドアは外開きなので、蝶番が外にも出ている。

 それを切断する気なのだろうか。

 って、この鍵、貴方がつけてくれたんですけどーっ!?

 つけてくれた意味は、どの辺にっ?
と思いながら、芽以は賃貸の建物のドアを壊されないよう、慌てて鍵を開けた。
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