恋の仕方を教えてくれますか?
誰の仕業?
「僕と結婚を前提にお付き合いしてください」

25歳のバレンタインの日に上司に突然告白をされた。

それを私は断った。

その一ヶ月後、上司の栄転が決まり、四月には海外へと旅立って行った。

それから三年の月日が流れた。

「麻乃!ねぇ聞いた?明日から榊さん戻ってくるんだってよ!!」

久しぶりに耳にするその名前に少し動揺してしまう。

「へ、へぇ…そうなんだ?」

榊さんは三年前、突然私に告白をしてきた人。

なんで私なんか…?なんて尋ねる間も無く自分の口からは無意識に謝罪の言葉が発せられていた。

榊さんの顔を見る間もなく私はその場から立ち去った。

立ち去ったと言うより、逃げたと言う方が正しいかもしれない。

「もうっ!ほんとあんたは男に興味ないんだから!そんなんじゃいつまでたっても彼氏出来ないよ!?」

同期の麻里恵が声を上げる。

「ちょ、麻里恵…課長が睨んでる…」

広いオフィスではあるけれど、麻里恵の高い声は周りに筒抜けで、私達は注目を浴びてしまっていた。

「し、失礼しました…」

麻里恵は申し訳無さそうに周りに謝ると、そこからは仕事に集中し始めた。

“榊さんが戻ってくる”

麻里恵のその言葉が頭から離れない。
どうしてあの時私に告白したのか…。

そもそも榊さんと私は上司と部下というだけの関係。ただそれだけの関係。

会話をするとすれば業務のことについてだけで、榊さんと話すこと無く終わる日の方が多かった。

それなのになんで私に…?
芋っぽいから推せばイけるって思われた?
でも、それなら婚約なんて申し込まないし、セフレでいいと思う…。
そもそも榊さんみたいな人が私なんか相手にする筈ない。

恋愛だってロクにしてこなかった。
彼氏が出来たこともない…。

キスだって…その先だって、想像でしかしたことない。

そんなことをあの日からずっとぐるぐると考えていた。

正解なんて出るわけも無く、いつしかそんなことも忘れていた。

お昼休み、私は麻里恵をランチに誘った。

「さっきの榊さんの話、ホントなの?」

うどんを啜る麻里恵の手が止まる。

「うん。」

それから麻里恵は七味を取って、自分の器の中に振りかけた。

「誰から聞いたの?」

「人事部の人だよ。っていうか麻乃、興味あったんだ?漫画にしか興味ないと思ってたけど…。」

麻里恵はニヤニヤしながらそう答えた。

「いや…興味があるっていうか…なんでまた戻ってくるのかなって思って」

「あー、なんか向こうでも実力が認められて専務になったらしいよ?」

「ッ…!ゲホッゲホッ…」

私は飲んでいたお茶をむせる。

「専務!?榊さんって確か30歳そこらだったよね…!?」

「んー…。向こうの支社に行ったのが確か31歳だったから、今34歳とかじゃない?」

「34歳…。若いのに凄い…。」

素直にそう思えた。
榊さんは昔から仕事が出来る人で、私が新人の頃はよく怒られてたっけ。

でも、榊さんがどんどん昇進して行くうちに、私みたいな平社員とは関わる事が少なくなっていった。
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