mirage of story
――――......。
ワアァアッ―――!
静寂に包まれていた空間。
そんな空間が一瞬の間を置いて大きくどよめいた。
歓声が沸き上がる。
先程までの静寂の反動か、その歓声はとても大きく世界中を迸った。
「カイム.........」
世紀的な瞬間。
国が、世界が動き出した瞬間。
新たなる国のその名が、どよめく空気と吹き抜ける風を伝って世界の隅々に浸透する。
―――ドクンッ。
.........。
どよめく空気、歓声に揺れる世界。
ッ。
竜の口からその名が零れた瞬間に、シエラの心臓は一度だけ大きく脈打った。
この新たなる門出への興奮か、未来への祝福への高鳴りか。
だがシエラはどれも違う気がした。
「どうした、シエラ?」
「.........」
判らない。
シエラは一度だけ大きく脈打った心臓の辺りを、反射的に服の上から押さえる。
"カイム"。
その名を聞いた瞬間に心臓が何を訴えて脈打ったのか、この沸々と静かに込み上げるものは何なのか。
トクンッ。
大きく脈打ったのは一度だけだったが、その余韻で少しだけ脈が速い。
「..........」
何だろうか。
響く歓声、問い掛け自分を見るライルの声。
それら全てが頭の中を繰り返し巡る"カイム"という言葉に、その名に掻き消されて遠くに聞こえる。
カイム。
カイム.....カイム。
聞いたことなどない名前。
シエラの記憶の中にはその名を持つ者は一人として居ない。
そう―――そのような名など。
「カ....イム.........」
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