mirage of story







平和になりつつある世界で、そんな何の危機感も無い他愛ない会話が響く。

........まぁ、彼等にとっては大問題かもしれないが。





というわけで、だ。
平和な世界の片隅のこの小さな森の中で二人は―――旅人と見違えるなんの変哲も無いこの二人は緑の中で立ち尽くす。

つまりだ。
今、世界を平和へと導いた張本人である二人の偉大なる王である彼等は―――シエラとライルは盛大に迷子になっている訳であるのだが。









「........はぁ、取り敢えず歩こう。
歩けばその内に抜けられるだろうから」


「う、うん」




今のこの様子。
とてもじゃないが二人がそのような偉大な一国の王には、今この世界で誰もが敬愛して止まない一国の王には到底見えない。

これではまるで腑抜けてしまうような恋人同士の会話。









そんなところで、そんな会話を繰り広げている彼女にはこのやり取りに何処か身に覚えがあるような気がしてならなかった。
それもそう遠く無い過去で。



そう、あの時も確か―――。
確かこうやって大切な人と二人でこんな会話をしながら、この森を歩いていた。

この森。
此処は彼女がシエラとして育った彼女の故郷の傍にあった、あの森。



大切な思い出と、哀しい思い出の入り混じる場所。
母代わりであったエルザを失って故郷であった村も失った今となっては、シエラにとって過去を辿る数少なき場所。

懐かしい。
でも、とても哀しい気持ちにもなった。









「それにしても、此処はシエラの言っていた通りだ。
凄く不思議な感じがするな」



呆れ笑いを何時の間にか引っ込めて、今度は彼女を先導して歩き始めたライルが暫く無言で歩いていた最中で言う。






「......そうよね、ライル。
貴方と此処へ来るのは.......初めてだものね」



「ん?
あ、あぁ。だからお前が俺を一度でもいいから此処へ連れて行きたいと誘ったんだろう?」


「そう.....よね」






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