mirage of story












その人は飛び出してしまうくらいの心臓の鼓動を無理矢理抑えつつ、闇の言葉の続きを待った。












"――――その望みを叶えるためには、それ相応の対価が必要だ。


しかもお前の望みを叶えるのは、人が願うには重すぎる。
お前自身の命を捧げようとも、到底足りぬぞ"





希望が絶望に変わった。


命を捧げても足りない。
では、どうすればいいのか。

その人は命を捧げる覚悟はあった。それが自分に支払える最高のものだったから。
だからそれ以上のものを、その人は持ち合わせてないないのに。






対価を支払えない。
つまり、願いが叶わない。
それは困ると、その人は闇に懇願する。

それは懸命で、必死で。
そしてその人のそんな様子をまるで楽しんでいるかのように、声の纏う空気が笑う。





















"..................だがお前は幸運な奴だ。

お前は人という愚かな存在でありながら、我に気に入られた。
いいか、これは人にとって最上の幸福ぞ!



お前は特別だ。
お前は我が認め選んだただ唯一の人だ。

........お前の願い、その望みを叶えてやろう。
命などそんなものは要らない。
望みの対価はお前と我との―――消して破れぬ契約"







契約。
その単語が、何故かとても重々しく聞こえた。


その人の中で鳴り響いていた警告音が、一層にけたたましく身体中を駆け巡る。
だが、今更もう遅い。









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