社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

「それなら、私が出ますから」

 必死な声が漏れてしまい、社長が振り返った。

「ルームシェア先、見つかったのか?」

 鋭く聞かれ、私は唇を噛んで首を振った。社長がふっと息を吐く。まだ見つからないのかと言われた気がした。

「でもここは、もともと社長が暮らしていた部屋だし」

「仮住まいだって言っただろ。たまには自宅に戻らないといけない」

 本当に、それだけの理由ですか?

 心の中だけで尋ね、私は視線を落とす。パーカーの裾を握りながら、応接スペースのソファを見やった。

 昨晩の甘い雰囲気。あのときは胸がどきどきして、自分の体じゃないみたいに全身が熱くなった。焦りはあったものの幸せな気分だったのに、今は不安で仕方ない。

 私が、先に進むのを断ったからですか?

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