社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 社長が持っているのはスーツケースだった。体の大きな彼が抱えるとずいぶん小さく見えるけれど、私の荷物だったら一週間分は余裕で入りそうなメタリックシルバーのスーツケース。

「どこかに、お出かけですか?」

 胸が奇妙な音を立てた。胸の底から、焦りみたいな不安みたいな不穏な感情が湧き起こってくる。

「しばらく、自宅に戻ろうと思ってる」

「え……?」

「お前は自由にここを使ってくれてかまわないから」

「で、でも」

 階段を下りていく背中に続いて、一階に下りた。すでに出かける支度を済ませている社長の、シャツに包まれた広い背中を見つめる。

「どうして急に……?」

「いろいろとな。考えたいこともあるし」

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