君が夢から覚めるまで
「この後、後夜祭でフォークダンスがあるけど、一緒に踊らない?」
「ええっ!無理無理無理無理‼︎」
「そんな全力で拒否しなくたっていいじゃん。じゃあさ、一緒に帰ろ」
「え、出なくていいの?後夜祭」
「いいよ、俺は香帆ちゃんといたいだけだから」
高校最後の学園祭、後夜祭…。
思い出を作りたいと言った怜の気持ちを踏みにじった気がした。
「…いいよ、フォークダンス…踊ろ」
怜はちょっと驚いた顔をした。
「ううん、フォークダンスなんかより、手ェ繋いで一緒に帰りたい…ダメ?」
「…分かった、良いよ」
「やったー‼︎ちょっとだけ片付けてくるから、校門とこで待ってて‼︎」
怜は急いで校舎に向かって走って行った。
その背中を香帆は優しい気持ちで眺めていた。
怜の姿が見えなくなって校門に向かおうとした時、視線を感じた。
振り返ると、以前、怜の腕に絡みつき、香帆を睨みつけていた少女がいた。
ーーーああ、そっか…同じ学校だったんだ…。
ちょっと、と声を掛けられ、人気のないところへ連れて行かれる。
自分がこれから何を言われるか大体想像がつく。
「どうゆうつもり?」
「別に…」
「いい歳して、高校生に手ェ出して恥ずかしくないの?このクソババア‼︎」
随分な言われようだ…。
だが、高校生から見たら大学生なんてものは大人ではなく、クソババアなんだろう…。
「私と怜君はただの先生と生徒だよ。それ以下でもそれ以上でもないよ」
「じゃあ何でこんなトコにノコノコ来てんのよ!怜は桃華の彼氏なの!怜を返してっ‼︎」
少女が手を振り上げた。
パシッ…
思ってた以上に力強く頬を叩かれ、香帆は勢いそのまま後ろへ転んだ。
「っ‼︎」
「カテキョなんて辞めちまえ!もう来るな!馬鹿ー‼︎」
最後、少女は泣き叫びながら走り去っていった。
やっぱり…来るんじゃなかった。
気付いていた。
怜の左耳のピアスが無くなっている事を。
いつから…?
もう花火大会の時には無かったかもしれない。
彼女…桃華とは上手くいってないんじゃないかと、どこかで思っていた。
立ち上がろうとして手をついた。
「痛っ!」
転んだ拍子に手を捻ってしまったようだ。
ジンジンと痺れる。
痛めた右手を庇いながら立ち上がり、服に付いた土を払った。
帰ろう…。
叩かれた頬も赤くなってるだろう。
こんな所、怜に見られたくない。
しかも、桃華が絡んでる事も知られたくない。
《急にバイトが入ってしまったので帰ります、ごめんね。今日はありがとう。後夜祭、楽しんで下さい》
怜にはメールして、こっそり帰った。


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