君が夢から覚めるまで
「わっ凄い!本当に咲いてるんだ!凄〜い!凄〜い!」
香帆は同じ言葉を何度も繰り返した。
レジャーシートを広げ、弁当を囲む。
フタを開けると綺麗に彩られたサンドイッチが並んでいた。
「ごめんね、昨日の今日だからこんな物しか作れなくて」
「こんな物じゃないよ、俺サンドイッチ大好き!ってか、食べるのもったいない」
「じゃ、止めとく?」
「食べる!香帆ちゃんが俺の為に作ってくれたんだもん、食べる‼︎」
香帆はクスクスと笑いながらさりげなく、ハイ、とウエットティッシュを渡してくれた。
たったそれだけのことなのに、フワッと心が温かくなる。
弁当をたいらげ、まったりとしながら桜を見上げる。
「…キレイ…」
小さく香帆が呟く。
桜なんかより、香帆の方がずっとキレイだと怜は思った。
桜なんかより、香帆をずっと見ていたかった。
お腹いっぱいになり、ポカポカ陽気が睡魔を誘う。
こてっと怜は横になり、桜を見上げている香帆を横目に不自然にならないよう、香帆の太ももに頭を乗せて膝枕をした。
「れ、怜君⁉︎」
「ちょっと眠い…寝させて…」
最初は驚いて戸惑っていた香帆も暫くしたら落ち着いて来た様子だった。
怜は目を閉じて、耳から、頬から伝わる香帆の温もりと柔らかさを感じていた。
凄く幸せで気持ち良くて…ついウトウトしてしまった。
カシャ…
カメラのシャッター音で目が覚める。
「あ…ごめんね、起こしちゃった?」
「何撮ったの?」
「桜。こうやって花弁が降ってくるのを下から見上げるのって凄く幻想的だな〜って思って」
携帯のカメラを掲げている香帆の顔は見えない。
けど、きっと優しい顔をしていると思った。
「…香帆ちゃん…」
小さく呟き、お腹に顔を埋め腰に手を回した。
「ひゃぁっ!くすぐったい‼︎」
モゾモゾと動く怜を笑った。
「香帆ちゃん、好き…」
想いが溢れる。
好き…好き…大好き…。
「怜君って…意外と甘えん坊なんだね、かわい…」
ふふっと笑い、怜の頭を優しく撫でた。
香帆が触れる感触に全神経を集中し感じようとした。
「怜君の髪って柔らかいんだね。羨ましいよ…」
「そう?俺、香帆ちゃんの髪好きだよ」
手を伸ばして胸のあたりの髪をすくう。
お互いの髪に触れ、目が合う。
ふわっと風が吹いて、二人の間を桜の花弁が舞う。
怜は引き寄せられるかのようにゆっくり起き上がり、顔を近付ける。
「あ…花弁、ついてるよ」
香帆は指先で怜の髪についた花弁を摘むとフッと息を吹きかけ、風に乗って飛んでいくのを見送った。
その仕草に目が離せずにいた怜に気付き、ん?と、首を傾げて笑って見せた。
「歩こっか…」
レジャーシートを片付け、二人はまた手を繋いで公園の中を歩き出した。
…キス、しようかと思った。
そう思ったら、意識しすぎて、そればっかり考えてしまう。
キスがしたくて堪らない…。
香帆がさっきから何か話しているが、心臓がバクバク言って会話が耳に入って来ない。
キスしたい、キスしたい、キスしたい…。
香帆の顔を見ると唇ばかりに目がいってしまう。
その柔らかそうな唇に触れたくて、触れたくて…。
「怜君?どうしたの?さっきから…」
曖昧な相槌しか打てなくなってる事に香帆が心配し出し、怜の顔を覗き込む。
今なら…出来るかもしれない…。
「香帆ちゃん…」
そっと香帆の頬に触れようとする。
「あ、待って。また頭に花弁ついてるよ」
怜の頭に手を伸ばし払う。
「怜君、花弁に好かれてるね」
うふふっと楽しそうに香帆は笑った。
その笑顔を見てしまったら、手が出せなくなった。
香帆は桜の花弁に似ていると思った。
ヒラヒラと自分の目の前に降りて来たと思ったら、風に吹かれて遠くへ飛んで行ってしまう。
まるで怜の事なんか見ていなかったかのように…。
結局、この日は膝枕が限界だった。

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