君が夢から覚めるまで
12.亮
香帆を見て亮は『はじめまして』と言った。
香帆だと気付いてるはずなのに、そう言った。
いや、むしろその方が香帆には有り難かった。
香帆は亮に近付かないよう、あまり話さないようにお祝い会に参加した。
「熱っ!」
つい、ホットプレートに触れてしまい、小さく呟いた。
周りは盛り上がっていて誰も気付いてない様子でホッとした。
「もしかして火傷した?」
聞いて来たのは亮だった。
見てたのか…?
「あ、ううん。大丈夫」
「駄目だろ、すぐ冷やすんだ」
「ええっ?」
亮は立ち上がり、香帆の腕を取って歩き出す。
香帆は引きずられるように洗面所に連れていかれ、腕を掴まれたまま水にあてられる。
狭い洗面所で背中から亮の体温を僅かに感じる。
「あ、ありがと…」
思わぬ再会に、至近距離に、香帆はドキドキせずにはいられなかった。
「痕が残ったらどうすんだよ」
「大丈夫、これぐらい平気」
「バカ、女が傷を作ってどうする…我慢すんなよ…」
「ごめん…」
「たいしたことなくて良かった…」
亮が耳元で囁く。
ドキドキが破裂しそうで、亮に聞こえてしまいそうで…。
「亮君…近い…」
「香帆ちゃん大丈夫⁉︎」
怜が洗面所に飛び込んで来た。
亮がパッと香帆から少し離れた。
「あ、うん。大丈夫。ごめんね、心配かけて」
濡れた手をタオルで拭き、そして何事も無かったかのようにリビングに戻った。
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