君が夢から覚めるまで
夏祭りに行こう、と怜に誘われた。
そう言えば…初めて怜とデートをして一年になる。
二年振りに浴衣に袖を通す。
去年は着なかったが、一昨年は、これを着て亮と夏祭りに行き、告白された。
何かと思い出が残る浴衣だった。
引き出しからちりめん細工の髪飾りを出す。
これは…高校一年の時…和馬にプレゼントされた髪飾りだ。
これを手渡され、告白され…二人は恋人になった。
「夏祭りって思い出ばっかだな…」
二人の始まりのモノ…どうしても捨てる事が出来なく、それどころか東京まで持ってきてしまった。
髪を結い上げ、髪飾りをつけた。
『来年は着て来てよ』
一年前から今日の日を予約していた怜は香帆の浴衣姿を見て大いに喜んだ。
その顔を見て香帆も嬉しくなった。
「行こ行こ!」
テンションが高い怜は香帆の手を取って歩き出した。
相変わらず凄い人の波で、手を繋いでないと本当に逸れてしまいそうだった。
なのに、なぜ…。
「あれ?先輩?」
「お、怜じゃん」
怜が見つけて声をかけたのは和馬だった。
その隣には涼葉がいた。
香帆は顔がひきつりそうになるのをグッと堪え、ニッコリ笑った。
「この間は…」
「どうも」
香帆は不自然じゃないように挨拶をした。
早くこの場から離れたかった。
「その髪飾り…」
和馬に言われてしまったと思った。
「君によく似合ってるね」
「あ、ありがとうございます…この浴衣に合わせて先週、買ったばかりなんです」
和馬に貰ったのではなく、自分で買ったと嘘のアピールをした。
気付いてないだろうか…。
「へぇ〜そうゆうちりめん細工って、生地の裁断する位置によって柄の出方が違ってくるんだよね。だから同じ形でも同じ柄ってのはないんだよ」
気付いてる…。
それは、遠回しに『俺があげたやつだろ?』と言ってるのと同じだ。
なぜ、それを付けてしまったのだろう…和馬が東京にいる事を知っていて…。
香帆はギュッと怜の手を強く握った。
「じゃ、行こか」
それに気付いた怜は和馬達と別れた。
思わぬとこで和馬と出会い、今でも貰った髪飾りを大事にしてる事を知られて香帆はかなり動揺していた。
怜が何か話かけて来るがあまり耳に入って来ず、曖昧に笑ってやり過ごした。
花火が打ち上がる。
ドーンと弾ける音が胸の中の何もかも弾けさせる。
もう、何もかも花火のように弾けてしまえばいいのに…。
ドキドキと胸が高鳴り始める。
怜が後ろから抱き締めてきた。
「香帆ちゃん…」
香帆は怜の腕にそっと手を重ねる。
「二人きりになりたい…」
耳元でか細く掠れた声で囁く。
「…抱きたい…俺、もう限界だよ…」
怜の言葉が切なく胸に響く。
香帆は静かに頷いた。
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