君が夢から覚めるまで
25.overwrite
「香帆ちゃん、大丈夫?」
テントを覗き込んだのは怜だった。
「人が多すぎて疲れちゃったんだって?ごめんね、気付かなくて」
さっきまで和馬が座っていた場所に怜が腰を下ろす。
「ううん、大丈夫。ちょっと張り切りすぎちゃっただけ」
「それ…カキ氷?」
「あ、うん。椎名さんがくれたの」
「ふぅ〜ん…」
怜が小さく溜息をつく。
「俺さ…今日、結構ヤいたよ」
「あはは、ビーチバレー頑張ってたもんね」
「そっちの焼いたじゃなくて。イルカかシャチかで揉めてたり、遠くまで行っちゃった香帆ちゃん迎えに行ったり、様子見に行ってくれたり、カキ氷くれたり…なんで先輩ばっか?って妬いた」
「あ…ごめんね…ただの…偶然だよ」
そんな風に怜が感じてたとは思ってもみなかった。
「名古屋の水族館ってシャチいるの?」
「うん、いるよ。すっごい大きくてイルカよりずっと迫力あるんだよ」
「へぇ〜、見てみたいな〜」
怜が遠くを見る。
「名古屋に来ることがあったら行っておいでよ」
「…ねぇ、一緒に行かない?香帆ちゃんの生まれ育った街、見てみたい」
「え?」
「香帆ちゃんにとっては逃げたくなるぐらい、辛い思い出の街かもしれないけど、俺と一緒に行って思い出の上書きしない?元彼と一緒に歩いた河川敷も俺と歩けば俺との思い出になる。キスした公園も俺とキスすれば俺との公園になる。ねぇ、そうやってひとつずつ変えて行かない?」
「怜君…」
怜の優しい想いに胸が一杯になる。
「自分で自分縛ってちゃ、いつまで経っても辛いままだよ。俺との新しい楽しい思い出に変えていこ、ね」
鼻の奥がツンとし、コクンと頷いた。
「香帆ちゃん、舌、べって出して」
「舌?こう?」
言われるままに舌を出す。
「あはは、やっぱりカキ氷のシロップで赤くなってるよ」
そう言って怜がペロッと香帆の舌を舐めた。
「‼︎」
「甘い…」
ニヤッと笑う。
「香帆ちゃんのキス、甘くて美味しい。カキ氷もアリかな…」
そのまま香帆の頭を引き寄せて唇を重ねた。
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