年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「この縁談を断れば、お前の母親が悲しむぞ」

「えっ?」

「縁談を希望してきたのは、お前の母親だからな」

「ええっ!?」


信じられない言葉に驚いて目を見張る。
唖然としたままでいると、相手は煙の輪を吐き出した。


「自分のことはもういいからお前をどうにかして欲しい、と俺に頼んできたんだ」


くくく…と苦笑する相手はタバコの火を揉み消した。その仕草を見つめながら、俺は軽い目眩を感じた。


「健気な女だよな。自分のことよりもお前の方が大事なんだとさ。…それであいつは、俺の子供として使えるなら、お前を妥当な所へ送ってくれてもいいと言ったんだ。だから俺は土井さんに話を持ち掛けた。向こうはお前の仕事ぶりを見ているから願ってもないと言い、直ぐに話に乗ってきたぞ」


お前を外の女に出来た子供だと知りながらもな…と微笑んで囁き、こっちの様子を窺う。
その話を聞いた俺は愕然とし、母がそんな馬鹿げたことを望んだのかと呆れた。


「お前も母親が大事なんだろ。だったら有難く話に乗っとけよ。もう何の遠慮も障害もないんだから、今ここで自分の生き様を見直すにはいいタイミングじゃないのか」


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