年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
『(株)都築商事 代表取締役社長秘書 神田川昭彦』


えっ…と見たまま体が動かなくなる。

こんな所にどうしてそんな関係の人が来るの?と思いながらも、休暇中のことが頭に浮かび、ハッとしつつも窺うような気持ちで目線を紙から上へと向けた。


「ご理解頂けましたか?」


神田川という男性は人の良さそうな笑み浮かべると私のことを見つめ返す。
だけど、私は上手く呼吸が出来てないみたいで、相手の声をまるで上の空の様な感じで聞いていた。


「お仕事帰りで忙しいかとは存じますが、社長が貴女様にお会いしたいそうです」


良ければ車に乗って頂けませんか?と誘われるままに目を向けると、高級車がドンと一台路肩に停まっている。


「そう長い時間ではございません。駅前のホテルまでご同行願えませんか」


「…わ、私が?」


辛うじて声を発すると、神田川さんは、「はい」と機敏に返事して微笑む。


「社長はとてもお忙しい方です。今日でないと、次回はいつ時間が取れるか分かりませんので」


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